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1-bitダイビング

ΩーNETに接続する方式のひとつ。主としてデータホストに死蔵されているデータを取得するために用いられる(もちろん他の目的で使用されることもある)。

通常、データホストにはSiNEサイト用のデータが蓄積されている。これらのデータはSiNEホストと呼ばれるデータ処理専用システムで処理されてからユーザに閲覧されることを前提としているため、膨大かつ複雑な構造になっている。従って生データの状態で人間が理解することは現実的ではない。

一方、電力不足をきっかけとして世界中のほとんどのSiNEホストが停止されてしまったため、通常の手段でデータホストに蓄積された大量のデータにアクセスすることはできなくなってしまった。そこでハロルド・ゼームスタインによって編み出されたのが、この1-bitダイビングである。

1-bitダイビングでは、本来SiNEホスト(またはその他のデータ処理系)がこなすべきプロセス──厳密にはまったく同一の処理ではなく、データの取り出しに不要な手順は省略されている。例えばSiNEルームにおけるホログラフィ上での座標情報などは全て間引かれる──を、ユーザのブレインポケット(脳の一部領域)を使って行われる。この処理にはより高速なデータストリームが要求されるため、物理的にではないものの、脳がΩーNETと直結されているような状態となり、安全面ではやや問題がある。

脳に相当の負荷がかかるため、体質的に向き不向きがあると言われ、向いている人間でも最初のうちは乗り物酔いのような感覚に悩まされることがある。ある程度レベルが上がったユーザでも、自分の許容量を超えるデータを一度に受け取るなどすると、気絶するほどのショックを受ける。そのときのダメージの大きさによっては、最悪の場合は脳死に至ることもある。

また、通常は五感のほとんどを「持っていかれる」ため、傍らでサポートをする人間が不可欠である。サポートに入る人間の役割は肉体的な補助に留まらず、ダイビング中の様々な補足情報の提供も行う。このため、大抵の場合1-bitダイビングはメインのユーザとサポータとの二人組で行われるが、一部の上位ユーザには該当しない例もあるようだ。

1-bitダイビングを用いてΩーNETに「潜る」ユーザを総称して「Ωダイバー」という。Ωダイバーは原則として、ハロルド・ゼームスタインの運営するΩダイバーズギルドに登録していなければならない。実のところ1-bitダイビング自体は一種の脱法行為であり、連邦総務省及びQUEEN SYSTEMの取り締まり対象なのだが、ギルドに登録さえしていれば、どういう訳かこの対象から外される。ハロルド・ゼームスタインがQUEENと交渉した結果であると都市伝説的に語られることもあるが、実際には政治的な理由であるとされている(大企業などがΩダイバーを必要としたために、連邦政府としても限定的にその存在を認めざるを得なかった)。

1-bitダイビングに用いる端末は、ゴーグル型というヘッドマウント式の一種である。一説には、この端末の形が、「ダイビング」という名称の由来であるとも言われている。

ダイビング中に目の前に広がる景色は、ユーザのホスト内におけるアドレス等の状況を可視化したものである。現行バージョンの1-bitダイビングにおいて、状況の可視化とデータ処理とは完全に分離されている。データ処理プロセスはユーザのブレインポケットに依存するが、可視化についてはゴーグル型端末でかなりの程度処理され、それをユーザが見る形になる(1-bitダイビングの初期は可視化までをもブレインポケットで処理していたため、ユーザの脳への負担がより大きかった)。このため、端末の変更によって見え方が変わったり、ユーザがカスタマイズすることもできる。